事務所の棚に、領収書の紙袋が3年分並んでいます

「これ、スマホで撮ったら捨てていいんですよね?」

去年の秋、山田さんから電話でこう聞かれました。捨てられるものなら捨てたい。でも税務署に何か言われるのが怖くて、手が出ないまま棚が埋まっていく。同じところで止まっている方に、何人も会ってきました。

先にお答えします。紙で受け取った領収書は、決められたやり方でデータに残せば処分してかまいません。ただしこれは「やってもよい」制度であって、義務ではありません。急ぐのはむしろ逆側です。メールやWebで受け取った請求書や領収書は、データのまま残すことが義務になっています。

領収書の保存をどこから手をつけるか

電子帳簿保存法は3つに分かれています

法律の名前は1つですが、中身は性質の違う3つの制度です。ここを混ぜると話が噛み合わなくなります。

| 区分 | 何の話か | 義務か任意か | | --- | --- | --- | | ①電子帳簿等保存 | 会計ソフト等で最初からデータで作った帳簿・書類を、データのまま残す | 任意 | | ②スキャナ保存 | 紙で受け取った・作った書類を、画像データで残す | 任意 | | ③電子取引 | メールやWebでやりとりした取引情報を、データで残す | 義務 |

「領収書を撮って捨てる」は②の話です。放っておいて困るのは③のほうです。

電子帳簿保存法の3つの区分

撮って捨てられるのは②スキャナ保存です

②は要件を満たせば紙の原本を廃棄できます。手続きも以前より軽くなりました。

税務署の事前承認は要りません

令和4年1月1日以後に行うスキャナ保存について、税務署長の事前承認制度は廃止されました。始めるときに申請書を出す必要はありません。

撮ってから登録するまでに期限があります

タイムスタンプの付与期間は、最長2か月と概ね7営業日以内です。訂正または削除の履歴が残るクラウド等に保存し、その期間内に保存したことを確認できるときは、タイムスタンプの付与に代えることができます。市販の経理アプリでも、この形が採られています。

検索できる形にしておきます

検索要件の記録項目は、取引年月日その他の日付、取引金額、取引先に限定されています。以前あった相互けん制や定期検査といった適正事務処理要件は廃止されました。

ひとつだけ、重く受け止めてほしい点があります。スキャナ保存された書類に関して隠蔽または仮装された事実があった場合、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が10%加重されます。撮って捨てる手間は軽くなりましたが、中身をごまかせる余地が広がったわけではありません。

見落とされやすいのは③電子取引です

こちらは義務です。対象は、申告所得税・法人税に関して帳簿・書類を保存する義務のある方です。注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当するデータをやりとりした場合、その電子取引データを保存しなければなりません。

身のまわりでは、こういうものが当てはまります。

  • メールに添付されて届いたPDFの請求書
  • ネット通販の管理画面からダウンロードした領収書
  • クレジットカードの利用明細をWebで取得したもの
  • 自分が取引先へ送った見積書のPDF

受け取った場合だけでなく、送った場合も保存が必要です。

逆に、紙でやりとりしたものをデータ化しなければならないわけではありません。紙で受け取った領収書は、紙のまま保存しておいて構いません。ここを誤解したまま身構えている方に、何度も会いました。

保存のときに満たす要件は3つあります。改ざん防止のための措置をとること、「日付・金額・取引先」で検索できること、ディスプレイやプリンタ等を備え付けることです。保存するファイル形式は問われないため、PDFに変換したものやスクリーンショットでも構いません。

電子取引データの保存で満たす3つの要件

費用をかけずに要件を満たす方法があります

「専用システムを買わないと無理」と身構えられがちですが、お金をかけない方法が国税庁から示されています。

改ざん防止は、事務処理規程を定めて守る方法でも認められます。規程のサンプルは国税庁のホームページに掲載されており、ここは費用がかかりません。

検索要件は、次のどちらかで対応できます。

  • 表計算ソフト等で索引簿を作り、その検索機能を使う
  • ファイル名に規則性をもたせて「日付・金額・取引先」を入力し、ひとつのフォルダに集める

そもそも検索要件が不要になる場合もあります。基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下で、かつ税務職員からのデータのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合です。売上高がこの範囲に収まる個人事業主と小さな会社は、ここに当てはまります。

要件どおりの対応がどうしても間に合わないときのために、猶予措置も用意されています。相当の理由があると所轄税務署長が認め、プリントアウトした書面を提示・提出でき、データのダウンロードの求めにも応じられる場合です。ただし、システム等の整備が整っているのに手をつけていないだけでは、相当の理由とは認められません。

保存を始める前の確認事項

今日から動くなら、この順番です

| 順番 | やること | 目安 | | --- | --- | --- | | 1 | データで届く請求書・領収書の入手先を書き出す | 20分 | | 2 | 保存用のフォルダをひとつ決め、年ごとに分ける | 10分 | | 3 | ファイル名を「日付_金額_取引先」の形に統一する | 都度 | | 4 | 事務処理規程のサンプルを取り寄せ、自社の名前で整える | 30分 |

紙の領収書を捨てる話は、この4つが回り始めてからで間に合います。義務のほうを先に片づけるほうが、棚を見るたびの気の重さも早く減ります。

制度の当てはめは、事業の形や取引の中身によって変わります。判断に迷う部分は、所轄の税務署か顧問税理士にご確認ください。この記事は国税庁の公表資料をもとに整理したもので、個別の税務判断に代わるものではありません。

コマチWEBサポートでは、保存フォルダの設計やファイル名の付け方といった、道具の側をご一緒しています。税務判断そのものは税理士の領域なので、そこは線を引いてお伝えしています。

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出典:国税庁「電子取引データの保存方法をご確認ください(令和6年1月以降用)」令和5年7月/国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」令和3年5月

💬 あきらの一言

今年の8月、自分の経理を会計ソフトへ移したときに、電子帳簿保存法の設定画面で手が止まりました。項目の意味が分からないのではなく、「これをONにしたら、もう戻れないのでは」という怖さでした。結局、帳簿の保存はもともとONで、スキャナ保存だけを足せばよかった。5分で終わる作業を、1週間先送りしていたことになります。棚の紙袋を見るたびに気が重くなるのは、作業量ではなく、判断を保留している時間のほうなんだと思います。まずはデータで届くものの入手先を書き出すところから、20分だけ取ってみてください。

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